ふと気づけば此処にいた。
此処は自分の師が営んでいた私塾の庭だ。
そして、幼少時代の高杉とあの子が縁側に座っているのが目に入る。

あの子…自分よりも高杉よりも小さな女の子。
高杉が開いている本を覗きこんで、どうやら字を教わっているようだ。
頬をほんのり薄紅色に染めながら、高杉が指し示す箇所を目で追って興味津々に頷く。
高杉は面倒だという顔をしながらも何処か楽しそうに見える。

ちょっ高杉、俺の妹分に手ェ出さないでくれますゥ?
ヤキモチを焼く振りをして、本当は微笑ましい。
そんな風に、まるで自分もあの頃に戻ったかのように思えた。

だが、それも束の間。
途端に胸が締めつけられるように切なくなった。
この先、自分が、高杉が、あの子がどうなるかを知っている。
どんなに足掻こうとも取り戻せない。
もう、あの頃には戻れない。


あの子がやっと俺に気がついて、笑顔を向けた。
皮肉なくらいに、幸せそうだった。




寝起きだというのに目が冴えてる。
銀時は目覚めの悪さを感じながら、のろのろと洗面所へ向かう。


「何だって今更あんな夢見るかねェ」


仕度を終え、愛用のバイクに乗って、行くのはファミレス。
今日は新八が実家に帰っていて、ついでに神楽も泊まりに行っている。
前々からの決定事項だったので、銀時も予定を立てていた。

ファミレスへ行ってパフェだか何だか甘い物を食す。
いつもはファミレスへ行くとなると必ず神楽と新八が煩いのだ。
給料貰ってないから奢れ、と。
だから、今日は自分のために奮発するのだと銀時は決めていた。
自分の大好きなデザートを食べて、ついでに忘れよう、あの夢を。


「…あ」

向こう側に嫌な奴を見つけてしまった。
関わるとロクなことがない不良警察、というかマヨラー。
気づかない振りをして素通りすればいいと思ったのだが、銀時はふと踏み止まる。
マヨラーと会話をしている人物に目が入ったのだ。
キャラ的には見るからに普通の人で、しかもかなりの美人。
お近づきになって損はないだろう。

「あーあ、お巡りさんがナンパですかァ。これだからマヨラーは…」

「テメーいきなり現れて何言ってやがる。つーかマヨラー関係ねーだろ」

近寄ってきた銀時に土方はあからさまに嫌な顔をする。
関わるとロクなことがないと思っているのは土方も同じらしい。
だが、このまま変な噂をされては堪らないと弁解する。

「コイツはウチの女中だ。わかったらどっか行きやがれ」

「お宅には何度か行ったことあるけど、見たことねーなァ」

銀時はバイクから降りて、ちらりと土方の隣にいる女を見る。
女はこの状況で自分はどうしたらいいのかと困惑した顔で土方を見上げている。

「最近雇ったんだよ!いちいちうるせー野郎だなオイ!」

「ふーん」

キレ出した土方を余所に、今度は女をまじまじと見る。
女もその視線に気づいたようで、銀時の方を向いた。
目が合ったその女は、遠くから見たときよりも綺麗だった。

しかし、銀時は魅入られる以上に違和感を感じた。
初対面のはずなのに、初対面の時とは何かが違う。

「あの、初めまして。私、真選組で働かせて頂いております…」

「コイツには名乗らなくていい」

柔らかい微笑みを浮かべながら挨拶をする女を土方が止めた。

「土方さん?」

「単なる万事屋だ。俺たちには関係ねェ」

「オイオイそれはねーんじゃねーの?俺、結構助けてあげちゃってるって」

「邪魔しかしてねーだろテメーは!…もういい、行くぞ」

土方が女の手から野菜やら何やらがたくさん入ったスーパーの袋を取り上げる。
それから背を向ける前に、もう一度銀時を眼をつけた。
その目はいつもよりも更に鋭かった。
あ、何、マジでそういうことなの?
銀時は土方の胸の内に気づいて溜息をついた。

女はというと、歩き出した土方とその場にいる銀時をおろおろと交互に見ている。
そうしているうちに、また銀時と目が合った。
銀時が手を上げてバイバイと軽く振ると、彼女は今度こそ名乗った。


「私、と申します」


振っていた手がぴたっと止まる。


「さようなら、万事屋さん」


彼女はふわりと微笑んでから背を向け、土方に駆け寄っていく。
向かい合っていた時には見えなかったが、後ろ髪に簪が飾られていた。
漆黒に朱と金で桜の花が描かれている玉簪。

銀時は動けなかった。
ただ呆然と、その場に立ち尽くした。
けれど、頭の中では様々な思いが飛び交っている。


そんなはずがない。
確かにあの時、あいつは言っていた。
だから、俺もそれを受け入れるしかなかった。


『銀時さん』


もう、あの子はいないのだと。


夢の中で、あの子は幸せそうな顔をしていた。
兄貴分として、その幸せが続いてくれることを心の底から願っていた。


土方と、と名乗った女の姿が見えなくなった。
だが、彼女の微笑みとあの簪に描かれていた桜の花が銀時の脳裏から離れない。
先程感じた違和感が、確信へと変わっていく。




「…?」




その名も、あの簪も、高杉から死んだと聞かされたあの子と同じものだった。














今日、再び君と出逢った















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