「銀時さん!」
待ち合わせ場所まで来た銀時は、幼い頃のように自分の胸に飛び込んできたを快く受け止めた。
「よォ、。元気してたか?」
「はい」
抱きついたまま顔を見上げて笑顔で答える。
可愛らしかった幼い頃とは違い、女らしく綺麗になった彼女に銀時は一瞬クラリときたが、
やはり兄貴分としての妹分への愛しさの方が勝った。
「ホント、いつの間にこんな大きくなっちゃって…」
「おい、行くぞ」
と一緒に出迎えに来ていた高杉が銀時の言葉を中断させてスタスタと元来た道へ戻って行く。
それを見たは銀時からパッと体を離した。
「桂さんもいらしてるんです。行きましょう?」
銀時にそう言って、は小走りに高杉の後を追って行く。
結った髪の飾りにはあの玉簪が今も使われている。
「なんだかねェ…」
仲が良いのは昔と相変わらずなんだけど…
ポツリと一人立ち止まったままの銀時は先を行く二人を見ながらポリポリと頭を掻く。
高杉、あんなに嫉妬心強かったっけ?
「ま、うまくいってんならいいか」
そう笑みをこぼして銀時は二人の後を追う。
「おーこりゃー豪勢な弁当だなァ」
「貴様、それを言うよりも先に言うことはないのか?あるだろう?」
久しく会った旧友へ挨拶もせず、目の前に広がる弁当を見て歓喜を上げる銀時に桂が注意を呼びかける。
だが、銀時はそのまま座敷に座り込んで弁当を覗き込み、「どれから食おうか…」と悩み始めた。
「無視か、無視を決め込むのか!武士たる者、礼儀をわきまえるべきではないのか?」
「テメェからしてみたらどうだ?名乗るときはテメェからってのが礼儀なのと同じだろ」
憤り始めた桂に珍しく高杉が助言をした。
何の違和感も感じないまま「なるほど」と納得した桂は憤りを抑えて銀時と向き合った。
「お久しぶりです、銀時くん。お元気でしたか」
桂から、しかもバカ丁寧に挨拶をしたものの、銀時の反応は先程と変わらず皆無だった。
銀時は今も尚、無視を決め込んで目の前の弁当に夢中になっている。
「きっさまァァァアアッ!!!」
結果が分かっていて助言をした高杉は再び憤った桂を見て「クックックッ」と笑った。
弄ばれたことにやっと気づいた桂は高杉を睨みつける。
「高杉ィ…」
「そんな睨んでくるんじゃねーよ。が怖がるだろうが」
「えっ?!」
高杉の傍らに座ってこの状況におろおろと戸惑っていたに話の矛先が向けられた。
しかもつい先程まで憤慨していた桂に「こ、これはすまない…」と謝られ、は更に困惑した。
「い、いえ、私は大丈夫ですから…あ、そうだ。お弁当、どうぞ召し上がってください」
「すまない…では、頂こう」
「その前に盃を交わし合おうぜ」
そう言いながら盃を手に持つ高杉を見て、はすぐさま「お注ぎしますね」と酒瓶を手に取り、
高杉に寄り添ってその盃へトクトクと丁寧に酒を注いでゆく。
その姿はまさにお似合いの夫婦のようで、傍らにいる銀時と桂は惚けて二人を見ていた。
「お二人もどうぞ」
高杉の盃に注ぎ終わったに声をかけられ、惚けていた銀時と桂は内心びっくりしたが、
平然を装ってまず先に桂が「ありがとう」と盃を差し出した。
「あ、俺はこれがあるから」
続いて銀時の盃に注ごうとするを銀時は持参した甘酒の瓶を持って制した。
「銀時さん、変わらず甘いものがお好きなんですね」
「甘酒は俺の聖水よォ。けど、には特別に分けてあげるから。これなら飲めるだろ?」
「はい、ありがとうございます」
銀時が自分の分を盃に注いだ後には甘酒を貰い、高杉の傍へ戻って座る。
すべての盃に酒は注がれた。
「銀時、音頭取れや」
「は?ここは主催者のお前が取るべきじゃねーの?」
何で俺が、と高杉の要求に銀時は不満を漏らしながらも仕方なしに立ち上がった。
しかし、立ち上がったはいいが何を言おうか悩む。
「あ〜…」と唸りながら不意に頭上を見上げた。
桜が咲いている。この花を見るために、今ここにいる。
『桜が咲いたら、お花見をするんですよね?』
『花見?』
『もうそんな時期か…』
『そういや、は行ったことなかったけ』
『はい。だから私も行ってみたいんです…みんなで』
「え〜…昔、誰かさんがすっぽかしたせいであの時は駄目になったけど」
そう切り出しながら、銀時は先程から自分に突っかかってくる高杉をちらりと見た。
(桂は目を閉じて、その時のことを思い返しながら、うんうんと頷いている。)
案の定、高杉が如何にも「そんなこと掘り返すな」とでも言いたげにギロリと睨んでくる。
だが、それが逆に面白く、思わずニヤけてしまいそうになるが堪えて話を続ける。
「まあ、何はともあれ、あの時の約束を今ここで果たすことができた」
を見てみれば、彼女は驚いた顔をしていた。
そんな昔の約束を覚えているとは思っていなかったのだろう。
だが、忘れるわけがない。あの時、唯一の安らぎだったとの約束を。
約束をしたときのの喜ぶ笑顔を。
そして、今のがいなければ、この約束を果たすことは出来なかった。
こうして再び、高杉や桂と酒を飲み交わすことはなかっただろう。
それは口に出さなくとも、高杉も桂も自身で感じていることだろう。
桂も、先程は睨んでいた高杉も、いつになく穏やかな顔をしている。
驚いていたと視線が合い、銀時が笑みを浮かべれば彼女も笑顔で返してきた。
屈託のないその笑顔は幼い頃のまま。
「つーことで、約束を果たさせてくれたこの桜にカンパーイ」
、お前のおかげなんだよ。
桜見たぐらいで、こんなに嬉しくなっちゃうのは。
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