「今でも覚えていて下さってたなんて…感激しました」

日没が過ぎて花見もお開きになり、銀時と桂が帰った後、
桜の並木道の真ん中をゆったりと歩いて行く高杉の隣でが呟いた。
何のことを言っているかといえば、銀時が切り出した昔の約束のこと。

「俺ァてっきり、約束を果たすための花見かと思ってたぜ」

「確かに、今年の桜が咲いたことを知って、今度こそみんなでお花見がしたいと思ったから
お誘いしたんですけど…本当に、覚えていて下さっているなんて思わなかったんです」

遠い昔の約束さえも覚えている。それほど、が大事なのだ。
銀時も、桂も、そして自分も、と改めて高杉は思う。

一筋の風が吹き、桜の花びらがひらひらと儚げに舞い落ちる。
春、といっても宵はまだ肌寒く、風は冷たかった。

、もっと寄れ」

隣を歩くにそう言えば、彼女は素直に高杉の腕に触れるほどに身を寄せる。
だが、それではまだ温かなぬくもりは伝わってこない。

今度は何を言うでもなく、高杉はの肩を後ろから片腕で抱いて自分へ寄せた。
突然のことにはバランスを崩しそうになり、高杉の着物をギュッと掴んで押し留まる。
高杉もそこで立ち止まった。

「高杉さんっ」

顔を上げたは珍しく抗議するような表情だった。
だが、それさえも愛らしく、高杉はそのまま両腕でを抱いた。

「温いだろォ?」

高杉が優しくそう言えば、も今度は抵抗もせずに身を預ける。

これから先もずっと、こうしては自分の傍にいるのだろう。
だが、昔と同じように、ではない。を抱き締めれば抱き締めるほど高杉はそう感じていた。

「…もう暫くしたら、ここに住むか」

高杉の突然の提案には「えっ?」と驚いて顔を上げた。

「ここに、って…地球にですか?」

「ああ。何かおかしいか?」

「いいえっ、ただ、突然だなと思いまして…」

「別に突然じゃねェよ。前々から考えてた…そろそろ、お前さんと二人になりたいってなァ」

夜空は雲もなく、何も遮るもののない月が地上を照らしている。
その光は咲き誇る桜の花びら一枚一枚を青白く光らせ、その並木道を仄かに明るくさせていた。

だから、は高杉と今までで一番近い距離にいるのだということを視覚でも感じることができた。
今まで、どれだけ傍にいても、こうして口を吸われることなどなかったのだ。

「…

が息苦しさを感じる前に高杉は口を離した。

「俺の嫁さんに、なってはくれめェか」

『もし、この簪が似合うような女の人になれたら…』

高杉が何を言ったのか、それを理解しようとする前にの脳裏には幼い頃の記憶が過ぎった。
ねぇ、高杉さん。あの時の約束、今も覚えていて下さってるの?
私、貴方に相応しい女の人になれたの?

すぐ目の前に高杉の顔があるというのに、溢れてくる涙で目がぼやけてくる。

「本当に、私なんかで…っ」

泣き顔を手で覆おうと体を離そうとするを逃がさないよう、高杉は抱いている腕に力を込める。

「お前さんしかいねェのに、他にどうしろってんだ」

そう宥めながら僅かに笑みをこぼす高杉。
照れ笑い、なのだろうか。そう思うとは泣きながらも高杉の申し入れに素直に喜べるようになった。

「ずっと、夢だったんです。ずっと、叶わない夢だと思ってた」

「お前さんは綺麗になったよ。俺が銀時にまで警戒しちまうくらいになァ?」

「高杉さん…」

「ずっと、一緒にいてくれるんだろ?」

共に生きようと決めた時からも昔から変わらずにあった、ただ傍にいる関係。
だが、もうも子どもではない。
男女として愛し合えるのだと気づく前に、既にを女として愛していた。

「…はい」

そうしてが笑って頷き、新たな春がやってきた。














ソメイヨシノ江戸に咲いた、美しき春の花














2007年4月1日 
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